第8章 *Happy Birthday 6/10*〜木吉鉄平〜
ケーキも完成、装飾も終了。
リビング、部屋も片付けて、もうする事はない。
そろそろ来る頃かな、と思っていると、インターホンの呼び出し音が聞こえた。
「はい」
「香奈、来たぞ〜」
聞こえたのは、予想通りのんびりした喋り方の鉄平の声。
その声を聞いた後、すぐに玄関の扉を開ける。
「部活、お疲れ。ごめんね、わざわざ寄ってもらって。」
「いや、俺の家と香奈の家って、そんなに離れてないから平気だぞ。」
結構遠いはずなんだけどな。
部活後で無理させちゃったかな、とちょっと不安になるけど、頭を撫でられて、安心した。
「ま、取り敢えず入ってよ。ここで話しててもあれだし。」
「ああ。お邪魔します。」
そう言って靴を脱ぎ、リビングに入ろうとする鉄平を、直前で止める。
危ない、今入れちゃいそうになったよ…。
「ちょっと待ってて、鉄平。あ、リビングの中見ちゃダメだよ…?」
「ん?何でだ?片付けなら、俺も手伝うぞ〜」
「片付けじゃない…っていうか、片付けでも、手伝わなくて大丈夫だから。」
「そうなのか?…分かった。」
よく分かってないような顔をしてるけど、見ないようにとこちらに背を向ける鉄平。
それを見てから、私はリビングに入った。
事前に置いてあったクラッカーを手にとって、
「いいよー」
と声をかける。
ゆっくりとドアが開いた、その瞬間に。
「鉄平、誕生日おめでとうっ!」
そう言って、クラッカーを勢いよくならした。
パンッ!という音が鳴って、カラフルなテープや紙吹雪が舞う。
それを見て、鉄平はぽかんとしていた。
「…誕生日?誰のだ?」
「鉄平のだよっ!もう、本当に忘れてたんだね…。今日は六月十日!鉄平の誕生日!」
「あ…ああ!そういえばそうだった!」
「おっそい!今更だけど、リコちゃん達からもらったのも、元といえば誕生日プレゼントだったんだよ!」
「そうだったのか…!」
本当、天然の彼氏っていうのも疲れる。
でも、さっきまでぽかんとしてた鉄平は、今度は満面の笑みで喜んでいた。