第8章 *Happy Birthday 6/10*〜木吉鉄平〜
香奈side
携帯電話から聞こえた、その言葉に耳を疑う。
「気付いてなかった⁉︎」
「うん…。そうなのよ。」
電話の相手は、あたしの友達で、他校に通ってるリコちゃん。
新設校に行った、って言ってたっけ。
そのリコちゃんは、今、やれやれとでも言いたげな声で説明をしてくれる。
「ほら、鉄平って天然じゃない?だから。」
「いや、天然で誕生日忘れるって、それ、天然っていうよりボケてきたんじゃない…?」
もしかして、入院してる間に老人の方達に洗脳されたんだろうか。
だからボケちゃったのかな?
…いや、そんな事あるはずないから。
自分で自分にツッコミを入れて、頭の中を整理する。
リコちゃんの話によると、鉄平は、今日が自分の誕生日だという事を忘れていたそうだ。
「でも、鉄平に今日が誕生日って事、教えてあげたんでしょ?なら、私がケーキ渡しても問題ないよね!」
たまたま今日が自分の高校の創立記念日の私は、既にケーキを作って、リビングも飾ってて、準備万端。
あとは鉄平がうちに来れば、普通に祝える状態。
「…それが、ちょっと色々あって、ね…」
…なんだけど。
「…へ?」
どうやら私は、鉄平の天然を甘く見ていたようだ。
「実は、うちのバスケ部員集めて、皆で鉄平にプレゼントを渡したのよ。そしたら鉄平、それを退院祝いと勘違いしたみたいで…。」
「ええっ⁉︎」
「否定したかったんだけど、あの笑顔見ちゃったら、なんか言い出しづらくて…ごめん。」
ああ、その気持ちは何と無く分かる。
誕生日プレゼントって言っても喜んでくれるのは分かってるけど、一度その反応を見てしまったら、本音は言い出しづらいだろう。
「ううん、大丈夫。私もそういう時、時々あるから。」
「それで、よく彼女やってけたわね…。」
まぁ、確かに大変な事もあるけど。
今みたいな緊急事態も少なくなかったから、対処法はもう分かりきっていた。
「で、どうするの?」
「…私から言うしかないっしょ。」
呆れたように言うけど、実際は、一番最初におめでとうって言えるのが嬉しくて。
鉄平がどんな顔するのか、楽しみでしょうがなかった。