第25章 *Happy Birthday 10/2*〜小堀浩志〜
「どうする?これじゃ帰れないでしょ。」
俺もさっき見つめていた外を見る先輩。
名札をちらりと見ると、「遠野」と書かれていた。
…遠野先輩、か。
「あ、分かった。」
まだ五月だったのでほとんどがそうなのだけれど、初めて見た先輩だな、と思っていると、遠野先輩が呟いた。
背負っていたリュックの肩紐を左側だけずり下げたかと思ったら、右の肩紐を引っ張って、自分の前に持ってくる。
かなり強引な気がした。
そのリュックの中から何かを出したかと思えば、それを俺に差し出す。
「ん。」
…傘。
折りたたみ傘だった。
貸してくれるってことかな。
でも、相手は先輩。
簡単に受け取っていいのか、と、この時の俺は不安になった。
「…リュック重いので、早めに決めてもらえると助かります。」
「す、すいません…。ありがとうございます。」
嫌そうな顔をすることもなく、ただ困ったようにそう言った先輩に頭を下げつつ、傘を借りる。
先輩はリュックを背負いながら、俺の方をじーっと見た。
「…それ、小さかったらごめん。」
身長のことを気にしてくれたんだろうか。
でも、例え肩が濡れたとしても、俺にとっては助かったことに変わりなかった。