第25章 *Happy Birthday 10/2*〜小堀浩志〜
「…あの。」
落ち着いた雰囲気の、高い声。
どう考えても女子だった。
さっきまで人の気配も足音もなかったように思えたので、ビクッと肩が跳ね上がる。
恐る恐る、と言ったら失礼だけど、そっと後ろを振り返って、少し目を見開いた。
彼女の目が、射るように真っ直ぐで、綺麗だったから。
今まで一度も見たことのない。
ただ、俺は目を離せなかった。
俺も彼女のことをしっかりと見ているはずなのに、何故か視界が揺れる。
…動揺に近い気がした。
「傘、ないの?」
でも…動揺するほど強い眼差しなのに、どうやら心配してくれているようだった。
上靴の色が赤なのは二年生と決まっているので、先輩だと分かる。
「は、はい…。昼休み、教室に持っていくのを忘れたんです。多分、傘を忘れた人が自分のだと勘違いしたんだと…。」
「それ多分、盗まれたんじゃない?今多いんだから、勘違いって方が確率低いと思う。」
「えっ?」
まさかそうだとは思っていなかったから、驚いてしまう。
その先輩は、はぁ…と小さくため息をついた。
こちらに向けられてた視線を、俯くことで下に向ける。
「今の二年、まともな人少ないから。そういうことするの、大抵二年なの。ごめんね?」
「いえ…あの、」
「先輩のせいじゃないですよ。」と言おうとして、言えなくなる。
また見つめられて、息が詰まったような気がしたから。
「…はい。」
それしか言えなかった。