第21章 *りんご飴*〜森山由孝〜
「美味しいですね…!」
「りんご飴、久しぶりに食べたかも。」
りんご飴を舐めながら、屋台を見て回る。
特に行く場所は決めてなかったけど、こうしてるだけで幸せだった。
と、特に屋台のない場所で、人集りができているのが見えた。
何だろう?と思った時。
「…げ。黄瀬かよ。」
森山君が、明らかに嫌そうな顔をしながら呟いた。
黄瀬君って、一年生のモデルの子だよね。
森山君と同じバスケ部だったはず、なんだけど…。
「げっ」とか、チームメイトに言っちゃっていいのかな。
「何でこのタイミングで黄瀬なんだよ…。」
「…森山君?」
黄瀬君がいたら、都合が悪いことでもあるんだろうか。
よく分からなくて、頭上にはてなを浮かべる。
「あー…。ごめん、香奈ちゃん。」
森山君はそれだけ言って、私の目を塞いだ。
後ろから抱きしめられてるみたいで、パニックしてしまう。
「あっ、あの、森山君…。はな、してください…。」
「ごめん、やだ。」
結局離してくれないみたいだし、何がしたいのか分からない。
私はすっかり混乱してしまって、思わずりんご飴を落としかけた。
それを何とか阻止して、持ち直した時。
「俺さぁ、香奈ちゃんとデートできて嬉しいんだよね。」
「えっ!?」
その言葉に、また落としそうになった。
今度こそ両手でしっかりと持って、話の続きを待つ。
「俺のこと好きなのかなぁって思ってさ。俺をデートに誘ってくれたの、香奈ちゃんが初めてだったし。もしかして、気のせい?」
「え、いや、あの、うーん…?えっ、と…」
森山君が期待してくれてる。
だから、そうだって言いたい。
でも、森山君が私のこと好きとは限らない。
だから、言えない。
矛盾した気持ちに挟まれて、意味不明なことを口走ってしまう。
「…まぁ、それは後でいいよ。でもさ、俺はそうなら嬉しいんだよね?だから、黄瀬のこと見てほしくないっつーか…。」
段々声が小さくなって、聞こえなくなる。
でも、その声は、耳元で囁かれたからか、ハッキリと聞こえた。
「…だから、俺だけ見て。」