第3章 口減らし
【その頃、調査兵団団長室にて】
「クソッ。『ウォール・マリア奪還作戦』なんて聞こえはいいが、こんなのただの口減らしじゃねえか。」
黒髪で三白眼、首元に白いクラバットを巻いた男、リヴァイ・アッカーマンは苛立ちを隠すことなく吐き捨てた。
「その通りだ、リヴァイ。」
7:3に分けられたブロンドの髪に碧眼を持つ男、エルヴィン・スミスが静かに同意する。
「上層部からの支援は雀の涙ほどしかない。恐らく避難民のほとんどは丸腰で壁外へ送り出されることになる。食糧も全員に行き渡る量は用意されていないだろう。」
エルヴィンの冷静な言葉を聞き、リヴァイの苛立ちはさらに高まる。彼は目の前の机を勢いよく蹴り上げた。
「ふざけやがって……!どいつもこいつも避難民を使い捨てのゴミみてえに扱いやがる!」
「リヴァイ、落ち着いて。」
怒りを露わにするリヴァイを宥めたのは、眼鏡をかけ、茶髪を後ろで一つに束ねたハンジ・ゾエだった。
「エルヴィンも何か考えがあるはずだよ。ねえ、エルヴィン?」
「もちろんだ。」
エルヴィンは、机の上に広げられた作戦資料に視線を落とした。その目は深い思慮を湛えている。
「上層部からこの作戦を伝えられて以来、あらゆる可能性を考えた。だが、全員を巨人と戦える兵士に仕上げるのは不可能だ。見込みのある者をある程度まで鍛える……それが現実的な限界だ。」
「まあ、それしかないよねえ。」
ハンジはエルヴィンの言葉に肩をすくめながら返事をした。
だが、リヴァイの苛立ちは収まらない。彼は眉をさらに険しくし、低い声で呟いた。
「クソッ……」
部屋の中には重苦しい沈黙が漂った。
エルヴィンはその沈黙を破ることなく、ただ資料の上で手を組み、何かを考えているようだった。