第10章 五神の素顔
だ…れ…?
「お前の手は、汚くなんてねえよ。」
私の手を包み込む、大きなごつい手。
「よく見ろよ。綺麗できゃしゃな、女の手じゃねえか。」
いつも聞きなれていた声。
「汚れてなんか、ねえじゃねえか。」
手に力がはいる。
「なあ、緑。」
私は、動きを止めて、口を開いた。
「…気づかなかった、いたなんて。」
「ばーか。気配を消すのはお手の物だ。」
「そうね…。影が薄いもんね、あなたは。」
「あ?濃いわ!!影、ものすごく濃いわ!」
私は、できるだけ笑顔をつくって振り向いた。
「冗談よ、晋助。」
視線の先にいたのは、少しぶすくたれてる晋助だった。
――――――
「どうしたの?鬼兵隊の収拾は終わったの?」
「…まあ…な。」
私はすわりこんで話を続けた。
「今回は…なんか負け戦だったね…。」
「そのわりにはずいぶんと笑顔じゃねえか。」
…私の心境を読んでいるのだろうか。
「?そう?ほら、みんながみんなしんみりしてたら、士気がさがるじゃない?やっぱり私が「無理矢理な笑顔とか、見飽きてんだよ。」
晋助は少しいらだった顔で私を見つめた。
ダメだ、これ以上何か言われると、泣きそうだ。
「…わ、私、小太郎のところ行ってくる!」
私は晋助に背をむけ、その場から立ち去ろうとした。
温かみをかんじた。
私は動くのをやめた。否、動けなかった。
いつもは見飽きた隊服。
いつも私が洗っている隊服が、首回りに見えた。
肩に顎を置かれて、吐息が聞こえてくる。
世界が止まった気がした。
そうやって、おどおどしている私に、晋助は一言こう言った。
「…背中、がら空きだぞ?」
私は、この状態がどうなっているのかわかるまで困惑していた。