第4章 絆という名の光
そういって、また、遠くを見つめるような顔になる。
「…私ね、少しあんたがうらやましいんだよ。」
「え?」
姉さんは空を見つめる。
「だって…、家族の死に際にいれたんだから。」
そんな言葉をはっするのは、少しダメな気がする。
どうせ見合わせるなら、生きててほしかった。
だけど、そんな言葉も言えない。
姉さんは家族がいないのだから。
「でも、悲しいものは悲しいよね。」
「え?」
姉さんは俺の顔をのぞきこんだ。
「人によって、悲しみ方は違うんだよ。たとえば、思いっきり泣き叫ぶ奴、息を殺して泣くやつ、人に見られないように泣くやつ。そして、泣きたくても泣けない奴。」
そこまで言って、自分と俺に指をさした。
「あんたと私はね、『泣きたくても泣けない奴』だよ。つまり、正直者じゃない奴。」
そういうと、ばっと腕を広げる。
「…何してんですかい。」
「抱き着いてみろ、馬鹿野郎。」
はあ?と一瞬思った。
姉さんはまだ話を続ける。
「…ここでなら、総悟は泣けると思うんだ。泣いて、すっきりしたほうが絶対いいよ。」
そういって、俺の頭に手を置く。
「…隊長?馬鹿はよしなさいよ。あんたはいくらなんでも荷が重すぎるし、まだ成人にもなってない青二才のくせに。強がっては可愛くないわよ。」
頭をなでられると、なんだかかなり落ち着いた。
なぜか、のどがきりきり痛い。
視界もぼやけてきた。
ああ、そういや、よく姉上は俺の頭をなでてくれたっけ。
こうやって優しく。
もう…、なでてくれないんだ。
俺にはもう、家族なんていないんだ。
そう思ってくると、次第に胸も苦しくなってきた。
「…だからさ、総悟。男の子は女の子に泣き顔とか、見せちゃあいけないから。だから…」
姉さんが言い終わるまでにはもう抱き着いていた。
息を殺すように、誰にも気づかれないように、そして心のなかで叫んで。
姉さんは、何も言わずにただ黙って頭を撫で続けた。
俺はずっと、日が暮れても泣き続けた。
そんなことがあってか、俺は「緑さん」から、「姉さん」と呼ぶようになった。
どうやらそれは真撰組にも波紋のように広がり「姉御」だの、「姉貴」だのと呼ばれるようになった。
今、その姉さんは拉致されているのだ。
早く助けなければ。