第19章 狂ったあとの静寂は
「…なんのようだ。」
入って早々、睨んでくる晋助。
俺ではなく、ヅラを。
「なんのようだじゃないだろう。さっきも言ってたし。」
「うっせえ、なんのようだよ。」
その言葉を無視し、あたりを見回すヅラ。
「……貴様、ここは一応借りている屋敷なんだぞ。物は丁寧に扱うべきだ。」
ヅラの眉が少し下がっている。
「んなことはどうでもいいだろ。……もう一度聞く。なんのようだ。」
機嫌が悪そうな顔を、さらに悪くした。これでは、火に油を注いでいるようなもんだろう。
「……この三日間、少し、考えていたんだが。」
ヅラはその場に座る。俺も、若干後ろに座った。
「何を。」
「これからのことを、だ。」
これからの…こと。
「俺達はその…、今まで、先生を奪還するために戦争をしていたようなものだろう?だが………その先生は、もう……。」
しばらく沈黙が続いた。
「……そうだな。もう先生はいねえ。」
「何か、やらなければいけないことを、他に考えたんだ。」
やらなければならないこと……?何を…。
「んなもん、ねえだろ。何にも。」
「一時は、幕府を壊そうと思ったんだ。」
ヅラの言葉に、晋助は目を開く。
もちろん俺も。
「…壊すって……。ヅラ…お前…。」
「……一時はと言っただろう、今は違う。」
俺のほうに向いていた顔を、晋助のほうに向きなした。
「………だが、俺はあることを思い出したんだ。」
「あること?」
ヅラはこくんとうなずくと、話し出した。
戦争が始まったころ、最初のほうで、俺達は戦後について話していた。
もちろん、全員全く同じ意見の、『一緒に萩に帰る』だった。
萩に帰って、畑でも耕して、寺子屋を開いて、そこに先生や俺達もいて……。
考えるだけで、幸せで、楽しくて。
もう、そんなこともかなわない。先生は死んだんだ。
「……だが、俺達は、まだ、生きている。緑と、俺達で一緒に帰らないか?……萩に。」
もちろん、答えは決まっていた。