第15章 悪魔のささやき
数秒の出来事だった。
あと0.1秒でも遅れていたら、確実に新八君は死んでいただろう。
「お……沖田…さん!」
新八君は腰が抜けて歩けないようだった。
「くっ…。」
俺は自分の手に力を込める。
刀を捨てて走ってしまったものだから、素手で受け止めるしかない。
もうすでに手は血だらけだ。
姉さんは力をゆるめるどころか、もっと強くしてきた。
「なんっで…!」
姉さん、一体どうしちまったんでい。
いつものあの姉さんとは全く違うじゃないですかい。
姉さんは相変わらず口元がにやけている。
目も、先ほどと変わらない。
じゃあ、最後のひとふんばりで…。
「あ…緑さんっっっっ!!!!!!!!!」
俺は大声で名前を読んだ。
すると姉さんの顔が、いつもの顔に戻っていった。
~緑SIDE~
「緑さんっっっっ!!!!!!!!!」
さっきまでなんの音もしなかった世界に、総悟の声が響き渡った。
光が届く。まぶしい。
気づくとそこは戦場で、目の前に総悟がいた。
何かとても苦しそうな顔だ。
私は周りを見る。
あれ…確か私、気を失って……。
私は自分の手を見た。
手を見た。
「……なに…これ………。」
自分の手には刀が。
刀には総悟の手が。
「っ総悟何してるの!!」
私は刀に込められていた力を一気に抜き、刀を捨てた。
総悟はほっとしたように手を元に戻す。
「というか…なに、これどういうこと…?」
総悟の後ろにはいまだにおびえ切った新八の顔。
ななめ後ろには信じられないという顔をした神楽がいた。
「…なに…よ……これ…。」
総悟は黙ったままだった。
様子から察するに、私は天人を倒した後、新八を斬ろうとしていたということ…?
まだ手の震えがとまらない。
何かにひびがはいる音が聞こえた気がした。