第12章 星空の下で
銀さんはかぼちゃを切ると、鍋に入れた。
「…いや、もしお前が江戸に住んでたら、ここは使いずれえだろうなと思ってよ。」
「?どうしてですか?」
「もう、江戸は天人の天下だからな。」
そういうと、どこか寂しげな表情を見せた。
銀さんは今二十歳か…。
僕と銀さんは十歳違うから、おそらく江戸にいる僕は十歳で、父上もすでに亡くなられているところだろう。
その頃の江戸は確かにターミナルも建ってたし、キッチンも普通に現代と変わらなかった。
「…そう…ですね。江戸はすっかり変わっちゃいましたね。」
「まあ、仕方ねえよな。将軍がいるんだもんな。」
かまどの火を焚きながら答えていた。
「…銀さんは、江戸には行ったこと、ありますか?」
「ん~…、人生で一回しかねえな。田舎もんには、江戸の空気は華やか過ぎだったな。」
田舎?
「銀さんって、出身はどこなんですか?」
「萩だ。え~と、九州の近く。わかるか?」
萩…。
確か寺小屋で地図の勉強をしたときにのっていたはずだ。
なんかぽこっとなってるとこの端っこにあった。
「あ、はい、わかります。」
「へ~、よく知ってんな~。」
「寺小屋で習いましたから。」
そういうと、銀さんの表情が少し曇った。
何かまずいことを言ってしまったのだろうか。
「…そっか。お前も寺小屋くれえ行ってたよな。」
「あ、でも、二年くらいですよ?そのあとは父上がその…亡くなったので、行けなくなってしまって…。」
さらに顔が曇った。
しばらく沈黙がはしる。
「……あの~…。銀さん?」
「………はは、俺達って、なんだか似てるな。」
「え?」
何が似ているのだろうか。
「…俺もだ。六歳のころから八歳のころまでしか寺小屋に通ってなかった。先生が…俺の父上だった人が、幕府に捕まっちまってな。」
その言葉に僕は体が固まってしまった。