第3章 それから
「嫌われてはないみたいなんですが、如何せん恥ずかしくて……」
数える程しか会っていない無免ライダーさんに相談するには込み入りすぎている気がするが、彼の優しい雰囲気に促されてついつい話してしまう。
それを彼は大切な話かのように真剣に聞いてくれていた。
「俺は、普段思っていたことを正直に話してくれた方が嬉しいし、それがいいことなら尚更。」
それが嫌な人はいないんじゃないかな、と付け加えながら話してくれる。
「その人がどうかは分からないが、素直になれない人が素直になってくれた瞬間に信頼されているんだと分かって嬉しくなるよ。」
彼の優しく諭すような口調に自然とモジモジしていた手が止まっていた。
再び彼の瞳を見つめ直す。
「下手に恥ずかしがって避けて信頼関係を元に戻すより、この先は平然と接して関係に進展がある方がいいと思うな。」
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時刻は18時くらいだろうか。
すっかり日が落ちてきた頃。
無免ライダーさんに言われた言葉を頭の中で繰り返しながら1人帰路に着いていた。
あの後彼はノルマをこなすために怪人討伐に戻って行ったが、忙しい所時間を割いてくれたことを有難く思う。
そういえばサイタマさんはB級に昇格してノルマが無くなった訳だが、そうなったら私とはウィン・ウィンの関係ではなくなるんだよな…と今更気付く。
あれ、どうなるんだろ
それに気付いてからは、恥ずかしがってた事も忘れてその事ばかり考えていた。
アパートに戻って部屋の前まで来ると、隣の扉がガチャりと開く。
「お前、急いで出ていくからジェノスが心配してたぞ。」
怪訝そうな表情を浮かべたサイタマさんが部屋から出てきた。
彼は私の顔を見るなり頭に?を浮かべる。
「どうした?」
窺うように言ったサイタマさんの顔をじっと見つめる。
「ノルマが無くなったら、私を側に置いておく必要は無いですよね。」
最初の頃を考えれば、私の口数も感情も本当に増えた。
それは紛れもなく彼らのお陰で、私が普通の生活を送れるのも彼らのお陰。
ノルマが無くなったから面倒くさくなったと言われたら、それで終わり。
だって彼らには私を守り続ける義理などないのだから。
「え。あー、まぁ確かに。そうだな。」
気まずそうに目を泳がせながら動揺するサイタマさんに、胸がズキンと痛む。