第2章 ここから
ボサボサになっている髪を手で慣らしていると、キッチンから出てきたジェノス君がフォークを三本持ってきた。
袋から出されたケーキはケースこそ原型を保っていたものの、中身は見るも無惨に崩れてしまっていた。
これを私は一所懸命に抱えて帰って来たと思うと可笑しくなってしまって、ケラケラと笑った。
笑顔を忘れていたのが嘘のように笑えたのだ。
急に笑いだした私をサイタマさんは頭がおかしくなった人を見るようにしていたが、次第に釣られて小さく笑う声が聞こえると、意味もなく3人で笑い合っていたような気がする。
形は崩れていたが味はなかなか美味しくてあっという間に完食してしまった。
サイタマさんがジェノス君のケーキのイチゴを目にも止まらぬ早さで盗んだ時のジェノス君の顔は後世に語り継ぐべきである。
食べ終わってのんびり過ごしていると、ジェノス君が何処からか救急セットを持ってきた。
バイ菌が入るといけないからと、手のひらの擦り傷を消毒してガーゼを貼ってくれた。
他に痛むところはないかと聞かれ、自分の体を探っていると何やらふくらはぎが痛む。
ズボンの裾を捲りあげてみると、ムチのような物で打たれた所の皮が綺麗に剥けていた。
目で見てしまうと途端に痛みが出てくる。
アドレナリンはすごい。
ジェノス君に処置してもらっている間に、垂れ流されていたテレビを何気なく見るとバラエティ番組が放送されていて、そこに出演している芸能人の顔を見てピンと来た。
「この人…」
呟いたのをジェノス君が聞き逃さなかったようで、ふくらはぎの処置が終わってから教えてくれる。
「彼はA級ヒーローのアマイマスクです。彼がどうかしたんですか?」
綺麗にガーゼを貼ってくれてあるふくらはぎを見てお礼を言うと、その問いに頷いた。
「今日助けてくれた人…なんだけど何か…いや、なんでもない。」
そう答えると、ジェノス君は若干荒々しく救急セットを片付け始める。
もしかして、アマイマスクと何かあったのだろうか。
そうだとしたら話に出して申し訳なかったなと思いながら、ふくらはぎのガーゼを剥がさないよう丁寧に裾を下げた。