第30章 ──
俺は祖父母宅で寝ているからか、夢を見た。
最初はうっすらと暗いどこかにいるだけかと思ったら、目の前に鉄格子が見えてぎょっとする。俺、夢の中で閉じ込められているのか。
すると、暗がりから声が聞こえた。
「目覚めましたか、闇蛇よ」
……は?
呼びかけられて困惑する俺をよそに、鉄格子の向こうで赤い何かが見えてきた。俺はその姿に、言葉を失う。
「炎蛇?」
俺が呼びかけると、自分のいつもの声じゃなくてますます理解不能状況になる。なんだこれ、どういうことだ?
俺は手や腕が思うように動かせないと思って自分の体を見てようやく気がついた。闇夜に溶け込むように真っ黒な尾とザラザラした鱗。まさか、そんな……俺は炎蛇の方へ目を向けた。
「ここはお屋敷様の牢屋。私たち夢蛇は、お屋敷様に捕らわれてしまったのです。覚えていますか?」
と炎蛇は悲しげに言った。その話、ずっと昔に聞いたぞ。俺はその言葉が喉まで出かかった。
俺がなんて言ったらいいか分からないでいると、炎蛇が高い窓を見上げた。
「外から物音がしますね……」
と炎蛇が呟いていた時だった。
「おら、ここで大人しくしてろ!」
「も、もう許して下さ……ひぃえっ!!」
その時、横の牢屋から物音と悲鳴が聞こえ鉄格子の隙間を覗き込むと、隣の牢屋に緑の蛇が連れ込まれているのが見えた。緑の蛇はすっかり怯え、反抗する気力がないようだ。
忘れるはずがない。人間の体をして蛇の顔をした化け物のことを。
化け物は緑の蛇がぐったりしているのを気にもせず、牢屋を後にした。あとには静けさが戻ってきたが、俺は次に何が起こるか知っていた。
高い窓からぬうっと黒い影が伸びた。
「ひぃえ、に、人間様っ?!」
思わぬ登場に炎蛇は狼狽えたが、俺はソイツが誰か知っていた。黒髪の少年が、窓から半分だけ顔を出して炎蛇に問いかけた。
「僕、迷子なんだ。お家がどこにあるか分かる?」
……我ながらこの話し出しは可笑しいと思う。昔の俺、もっとマトモなことが言えなかったのか。
俺は心の中でため息をつきながら、これから起こるであろうことをあれやこれやと想定した。
過去の自分を助けてやるか。
俺は闇蛇になった体で、トグロを巻いて考えた。
おしまい