第4章 温かいお茶
その後、何度か会社でドズルさんを見かけたが、守護霊は奥さんの生き霊に変わっていて特段異変はないように思えた。何より、ドズルさんがいつも元気で楽しそうだったから。
余計な心配だったかな、と思って自分の仕事に戻ると、机に覚えのない温かいお茶が。
「あれ……」
とつい独り言を呟くと、近くの席にいたおんさんが淹れて置きました、と自分の湯のみを見せてくれた。どうやらついでに淹れてくれたみたいだ。
「ありがとうございます」
私はお礼を言い、席につく。お茶を飲むとしんみりと体の芯から温まる感じがして更に仕事が捗った気がした。
そこにいるおんさんは、ドズル社の裏方スタッフの中で唯一私が「視える」人間であることを知っている人である。他のスタッフに噂をされている様子もないので、どうやらおんさんは私が視える人間であることを秘密にしてくれているみたいだ。
ただ、そのことがきっかけか、別の噂は立ってはいるようである。最近あの人、おんさんに近いんじゃないかとか、本当はおんさんが担当しているMENさんに近づきたいんじゃないかなどなど……。
その時、私の視界の端で緑の何かが横切った気がした。まさかまた変な幽霊なのではと思ったが、一瞬だったのではっきりしたことは分からなかった。変なことには巻き込まないでくれ……私は心から、そう祈るばかりだった。