第13章 赤い花
そんな不思議な話を聞く立場もしばしばありながらも、今日もドズル社に出勤してきた日。ドズルさんがすでに席についていて、パソコンを前に何かしていた。
「おはようございます、ドズルさん。何か手伝うことありますか?」
と私が声を掛けると、ドズルさんは明るい笑顔を見せた。
「おはよう、待ってたんだよ」
「え、私を……?」
「これ見てくれる?」
「……?」
促されるまま、私はドズルさんのパソコンを覗き込む。そこには、赤い花の写真が一枚。
「これって……!」
「そ、ハイビスカス」とドズルさんは話し続ける。「沖縄旅行に行ってた時はすっかり忘れていたんだけどさ、写真を見返していたら、急に思い出して」
これ、僕に憑いてるって言ってたハイビスカスの幽霊じゃない? とドズルさんが私に目で聞いてきた。会社にはもうすでに何人か出勤していたからだ。
だから私も、何度も頷くだけにした。
「そうです、それです」
それからそっと、ドズルさんの背後にいる守護霊を見てみた。そこには、ハイビスカスの花を手に楽しそうにしているドズルさんの奥さんが微笑んでいて、どうやら仲良くしているらしいということがよく分かった。
「これからいいことがありそうですね」
私がそう言うと、ドズルさんは小さく笑った。
「ハハハッ、そうだといいなぁ」
私はもう一度、パソコン画面のハイビスカスの花を眺めた。草に囲まれた中の一輪の花。誰かに見つけて欲しかったのかもしれない。なぜだかそういう妄想が湧いてきて、私は自然と嬉しい気持ちになった。