第35章 闇の男爵夫妻
降谷「椛…」
椛「うん。」
降谷「これからも、俺の仕事の立場や状況で椛を悲しませたりする事があるだろうし、この組織の案件が終わるまで正直…
確実にそう思わせるような事が、まだ続くと思う。」
椛「うん…」
降谷「けど、もう椛を手放せないんだ…
悲しませたりする事が、あるかもしれないと分かっていても…」
椛「うん…」
降谷「それでもどうか…
俺のそばにいてくれないか?
その分、人一倍…
その悲しみを感じさせてしまった以上に、幸せにしたいんだ…」
真っ直ぐな瞳に真っ直ぐな言葉。
少し切なげに話す彼のセリフが、彼女の胸に突き刺さる。
まるで、ちょっとしたプロポーズの様にも聞こえるその言葉の羅列に、胸の奥は切なく疼く。
椛「零?」
降谷「うん…」
椛「私、今でも十分幸せよ?
零にそんなふうに思ってもらえて…」
降谷「椛…」
椛「貴方が望む限り、ずっと側に居るわ。
側に居させて…
零…」
絡め取られている指先に力を入れると、彼の手をギュッと掴んで微笑む。
その彼女の様子を見て一瞬ハッとした表情を浮かべるが、すぐに幸せそうに柔らかい笑みを浮かべた。
降谷(この人と出逢えて…
俺は幸せ者だな…)
握られた手を少し持ち上げて、自身よりも細く小さな白い手に口付けを落とす。
唇が落ちた先は彼女の左手薬指だという事を、彼女は気づいていたのだろうか。
降谷「椛…
愛してる…」
椛「私も…
愛してるわ…」
まるで壊れ物を扱うかの様に、柔らかく優しい口付けが落ちてくる。
共に過ごす大切なこの時を、慈しむ様に。
そうして2人だけの夜は再び…更けていった。