第35章 闇の男爵夫妻
手に持っていた彼女の髪の束を解くと、再び指先で解き始める。
そんな彼の仕草を横目に、彼女も彼の後頭部に手を伸ばす。
椛「私も…零の髪、触るの好きだよ。」
自身とは違う髪色と毛質の感触を楽しむように、ふわふわと指で絡ませて撫ぜる。
少しくすぐったいのか、目を細める彼の仕草がとても愛おしい。
降谷「椛?」
椛「うん?」
降谷「そろそろベットに連れていって良い?」
髪を撫でている椛手が一瞬止まる。
すぐ目の前にある彼の綺麗なライトブルーの瞳を、覗き込む。
間接照明に照らされて輝く彼の瞳の奥には、優しさの中に、隠しきれない欲が見え隠れしている気がした。
椛「うん、いいよ…
連れてって…」
彼女の言葉を聞くと、フッと一度微笑んで、目尻にキスを落とす。
使ったドライヤーはそのままに、彼女の膝裏に手を入れて、抱き上げる。
文字通り言葉のまま連れて行く気だったようで、お姫様抱っこをすると寝室へ向かった。
椛は落ちないように、彼の首に腕を回し、体のバランスを取る。
彼女の方へ顔を向けた彼と目が合った。
椛「零…」
視線が合うと、嬉しそうに柔らかく微笑む彼の顔がすぐ目の前にある。
椛(本当綺麗な人だな…
ずっと見てられる…)
そんな事を思いながら、ジッと見つめる。
薄暗い廊下で、伏せ目がちの彼のまつ毛は影を落とし、それが何とも言えない情緒さを漂わせていた。
降谷「椛…
そんな目で見つめないでくれ…」
椛「…どんな目?」