第29章 川品中央総合病院
彼の言葉を受けて、黙ってしまった彼女を他所に、車は目的の場所に到着し、お寺の駐車場に車を停める。
今日周った菩提寺の中でも、見る限り1番大きめのお寺さんだった。
エンジン音が止まるのを確認すると、椛はすぐにシートベルトを外して、運転席に座る彼に腕を伸ばす。
そのまま運転席に移動して彼の膝の上に座ると、首に両腕を回して抱きつく。
そんな彼女を受け入れて、彼も彼女の背中に腕を回すとギュッと抱きしめる。
ゼロ距離になり、触れる所から布越しに伝わるお互いの体温が酷く心地よい。
安室「ふふっ。
椛さんはやはり、思いの外、大胆ですね。
ここ外ですよ。」
椛「外だけど車内だもん。」
安室「車内だけど外だし、まだ夕方前で明るいですよ。」
椛「明るいけど、誰もいないか…
安室さんの探知能力で、周囲をスキャンして調べて…」
朝、会った時とは会話の立場が逆になる。
安室「くっくっくっくっ…w
大丈夫、スキャンしたけど誰もいないよ…」
彼女の言葉遊びに付き合う安室。
その表情はとても幸せそうに見える。
安室「車内でそんな体制で抱きついて来て…
どうなっても知らないぞ?」
椛「だって…
安室さんがあんな事言うから…」
安室「事実なんだからしょうがないだろ?
それに先に俺を煽ったのは椛だろ…」
椛「いつも煽ってくるのはそっちが先だよ…
突然不意打ちで煽ってくるから、煽り返してるの。」
なんとも可愛い言い訳だろうか…
今の彼には、更に想いを募らせる要因でしかない。