第40章 立夏の約束事
椛「へぇ〜!
紳士物ってちゃんと見た事無いですけど、紳士用でこんな鮮やかで素敵な色物もあるんですね♪」
石垣「そうですね、かなり珍しいので、中々着こなせる男性が居ないのですが…
安室様なら良く合いそうだなと思い…
私の興味本位もあり…
お持ちしてみましたw」
椛「確かに…
着る人を大分選びそうですね…
これは化染ですか?」
そう言って彼女が手を伸ばしたのは、子千谷縮の本麻の反物だった。
商標には『青緑』と書いてあるが、糸が違えばエメラルドグリーンにも見えるその美しい色合いに、目がどうしても1番に惹かれる。
石垣「いえ、日本の天然染料ですよ。
古くから日本にある色ですが、良い色合いですよね。
浴衣にしても良いですが、安室様なら…
夏着物にした方が良さそうですよね。
背丈もありますし、反物的には夏着物にしても引けを取らないぐらい良い品ですよ。」
椛「えぇ、とても綺麗…
安室さん?
当ててみても良いですか?」
安室「えぇ、お願いします。」
場所を譲り、鏡の前に姿勢よく立つ安室。
反物を手に取った椛は1.5メートル程広げると、安室の後ろに回り込み、彼の左肩にかけて布を当てて流す。
椛(うわぁ…)
彼の背後から、覗き込む様に鏡に目を向ける椛。
そんな彼女と鏡の中で目が合うが…
一点を見つめたまま、固まってしまって動かない。