第1章 ヒーローみたいですね
「!」
國神は夕闇の中をしばらく走っていると、フェンスのそばで妙な集まりを見つけた。
案の定、さっきの試合の相手チームの内3人が逸崎1人に絡んでいた。
「お前、まぐれで勝ったからって調子乗ってんじゃねえか?周りの男子に媚び売って勝たせてもらって、自分は特別だと?勘違いヤロー。恥ずかしくねえのか?」
1人が逸崎を文字通り見下すようにして言い放つ。
「………」
しかし当の本人の彼女は、下を向いたまま口を開かない。
ネックウォーマーで口元を隠していた。
「さっきの試合、お前相当浮いていたぜ。ギャラリーでも好奇な目に晒されて、今頃噂されてんじゃねぇか?「あの名門正堂学院高校のサッカー部は、女子の手を借りなきゃ勝てねえ脆弱チームだった」ってな」
「………」
「さっきからずっと黙っていりゃあ?怖くて声も出せねえか?」
自分よりも背丈が上の3人に囲まれた状態で、逸崎は俯いていた顔を上げる。
ネックウォーマーを下げて口元を露わにして、吐き捨てるように言った。
「下らないですね。貴方達のような人とくっちゃべるくらいなら、サッカーの練習している方が何百倍もマシです」
ダァンッ!
相手は逸崎のネックウォーマーごと首元を鷲掴み、フェンスに力づくで押しつける。
「ッ!」
「大体、女が男の真似してサッカーするなんざッよぉ…てめーみたいな奴がいると空気悪くなるの分かんねえのか?あぁ?空気読めよォッ?」
罵倒と偏見の目。逸崎は目の前の光景を過去に被せる。
ああ、またか……
・・・・・・・・
またそんな言葉か……
『サッカーやってるお前を見ていると苛つくんだよッ…!!』
『ずっとお前が目障りだったんだよ。誰からも期待されずに済んで、ただ能天気に自分のことしか考えねえてめぇがッ…!』
『どうしてお前ばかりッ…!!』
あの時の言葉と憎悪の眼差しが、未だに忘れられない。
私にとってサッカーは"絆そのもの"だった。でも、
"アイツ"にとっては……
バッ!
『!』
逸崎を縛っていた腕が振り払われた。