第1章 ヒーローみたいですね
首元の拘束が解けて、反動で逸崎の体勢がガクッと崩れる。
グイッ!
(え…?)
身体は倒れることなく止まった。いや、違う。
よく見ると、力強そうな腕が庇うようにして身体を支えてくれている。
顔を上げると、"その人"はいた。
(え、この人……)
「だ、誰だお前?急に割り込んできて」
「そりゃこっちのセリフだ。お前ら何やってんだ?」
逸崎を囲んでいた男子3人は、突如として入ってきた國神を前に後退りする。
「まさかそのおとこんなの彼氏か?いい趣味してんじゃ__」
ガッ!
逸崎を支えている國神は、もう片方の左手で男の胸ぐらを掴み返した。
「誰でもいいだろ?それより女男以前に、負けた相手に逆恨みして、多数で1人を追い込んで、恥ずかしくねえのか?」
「!!」
國神の形相は男子3人がビビるほどの怒りを体現していた。
しかし逸崎は抱えられていてその顔がよく見えなかった分、その言葉が心に響く。
「正々堂々と戦わねえお前らみたいな奴が、"コイツ"(逸崎)のサッカーを語んじゃねえよッ…!」
……何で。何でそんなこと、
・・・・・・・
言ってくれるの?
まだ一度も会話していない、名前も知らないはずなのに。
"あの馬鹿"でさえ、"あんな言葉"しか残さなかったのに。
『サッカーをやっているお前は、俺にとってずっと呪いだったんだよ…』
なのに何で……
・・・・・・・・・・・
ずっと欲しかった言葉を、こんな時に……
逸崎にとって"その人"は、"國神錬介"と知る以前に、違う名前の持ち主であった。
ドラマでいえば、英雄。ヒーロー。
また友達として言えば、超のお人好しが付くお節介焼き。
1人でいる方が気楽で好きなのに、事あるごとに話しかけてきたり、頼んでいないのに優しい眼差しを向けてくれる大切な人。
「お前のこと、ちゃんと観ているつもりだから、もっと教えてくれよ。お前にとってのサッカーを」
「……やっぱ、とんだお人好しだね。アンタ」
これはブルーロックプロジェクトが始まる前のお話。
"國神錬介"が皆を救うようなヒーローとしてではなく、1人の友人として。
いや、かけがえのないたった1人の大切な人のためにサッカーをする物語だ。