第1章 ヒーローみたいですね
「そしたら逸崎さん。バリッバリの経験者でさあ!特にドリブルとか、ボール運びの足さばきっつうか、とにかく、女子の割にうめぇんだよ」
チームメイトはやや興奮気味で熱弁していたが、國神も冷静に同意見であった。
ボールがまるで、その逸崎という女子の身体の一部のように、彼女の意のままに操られていた。
敵にボールを取られた場面は一度も無かった。
(女子サッカーはテレビで見たことあるが、あんな動いているのを生で見るのは初めてだった……)
それくらい自然で、試合でも無駄な動きが見受けられなかった。
(あの動き。多分アイツ……)
國神は遠のいて行く背中を見つめる。
「もっと話聞きたかったけどよ、先帰っちゃったし。何か口数が少なくて、人見知り?みたいな感じ?」
「お前がお喋り過ぎんじゃねーか?人見知りならなおさら話しかけ過ぎるの良くねえだろ」
「流石!女兄弟いる奴は、乙女心分かってていいなぁ」
「いや…どちらかというと一般常識だろそれ」
「くーっ。逸崎さんの大人しそうな性格から考えられないあのシュートプレイや、周りに配慮して繋ぐようなスムーズなパス。お前が来る前の方がすごかったぜ!」
チームメイトのおしゃべりは止むことなく、誰もが同調するように呟く。
「もし女子じゃなったら、うちの部員に欲しいくらいだな」
シーン
場が静まり返って、変な空気が流れる。
「い、いやいやッ!女子を否定しているわけじゃねえよ。ジェンダー発言はこのご時世デリケートだし!ただ、男子だったら、うちのサッカー部にスカウトしてえなって……」
「まあ、もし話したければ、学校で本人に聞くんだな。そろそろ帰ろーぜー」
辺りはどんどん暗くなっていき、皆、試合後で疲れて、お腹の虫も鳴っていた。
(自主練するつもりで来たのに、時間無くなっちまったな……)
正直、身体はサッカーしたいとウズウズしていて、國神は不完全燃焼気味ではあった。