第1章 ヒーローみたいですね
ギャラリーは夕暮れと共に消えていく。
夕飯の支度やら宿題やらで、見物客が段々といなくなり、チームメイトは帰り支度を始める。
「おおー!國神じゃん!いたの?」
メンバーの1人がようやく、國神の存在に気付いた。
「やるんだったら、一言誘ってくれても良かったんじゃねーか?」
怒ってはいなかったが、少し拗ねたような言い方だ。
しかしさりげにスコアボードなどの片付けを手伝い、真面目さは隠せない。
「あー悪い悪い。これには少し事情?っーか、タイミングが合わなかったっつーか」
相手が頰をかいて困った様子の一方、國神はふと辺りを見渡した。
例の女子が見当たらないと思ったら、いつの間にかグラウンド外に向かって、背を向けて歩いていた。
「アイツ誰なんだ?」
チームメイトは國神の目線に釣られる。
「あー逸崎さんのことか」
「逸崎?」
チームメイトが言うには、部活絡みでグラウンドに着いた時には、すでに彼女は1人で練習していた。
慣れた足つきで自分のボールを上手く捌いて、ゴールまでドリブルを何往復をしていた。
『あのうすみません。僕ら、ここ予約したんですけど』
予約カードを片手に聞くと、女子は公園時計を見上げて、ハッとなった。
『あッすみません…!つい夢中になっていました』
と、素直にお辞儀をしてすぐに譲ってくれた。
そして彼女はまたしばらくコート外で1人で練習しており、チームメイト内でも練習にならず気になっていた。
「あの女子。ずっと1人で練習しているな」
「ここらへんじゃ見かけねえ奴だけど」
「すげー。曲芸師並にめっちゃリフティング続くやん」
そして結論、
「……女子1人いた方が華あるし、ただの練習だし、いっそ声かけちゃう?」
と、何故か誘う流れになったということだ。
「もちろん國神誘おうとしたけど、逸崎さんといい感じに皆で練習できて夢中になってたら、グラウンド使わせろって他校生の奴らが押しかけてきて、それでお互いWin-Winになるよう、試合になったっつーか」
なるほど。つまりあの逸崎って奴は、成り行きでうちのチームと一時的にサッカーすることになったって、巻き込まれたってことか。