第3章 お前も一緒に来るか?
逸崎はそっと呟きながら、烏龍茶をストローで飲んだ。
「それに、國神君って、誰にでも優しいってタイプだろうし、それに……サッカーがただ好きな純粋な人って感じだろうから、その……」
私が入れる余地は無い。
そんな言葉を出したくても、何故か言葉にできない。
國神君は私とは違って、自分の”本当の好き”で、サッカーができるすごい人だよ。
だから、そんなすごい人から、私のことを「すごい」って言ってくれて、正直、とても嬉しかったんだ……
(人に褒められるのって、やっぱり気持ちが良いんだよな。だから私は……)
『すごいな充。父親として鼻が高いよ。透もお前みたいに、サッカーをもっと好きでいてくれたらないいんだけどな……』
忘れかけそうな”父の声色”と”確かに存在していた美しい記憶が、ふと蘇る。
サッカーのことが絡むと、一緒に思い出してしまう。
醜くて辛い記憶も共に。
『お前がずっとサッカーをやっていたからッ…!!』
病室でスポーツ雑誌を投げつけられる。
私には当たらなかった。
けど当たって少しでも痛みを感じていれば、言葉による心の痛みを少しでも軽減できたんじゃ無いかなと、今になって思う。
『俺は……ずっとずっと、嫌で堪らなかった!!女子のお前が頑張るから、俺も親父の息子だから頑張れって…いつもいつもッ……!!』
私の知っている兄は、もうそこに居なかった。
今まで私のことを応援してくれて、一緒にサッカーをやってくれて、帰り道の夕日を一緒に見れくれた面影も無かった。
『どうしてお前ばかりッ…!!』
兄は息を切らしながら、二度と動かない足を抑えてながら、憎悪の眼差しを私に向けてきた。
『ずっとお前が目障りだったんだよ。誰からも期待されずに済んで、ただ能天気に自分のことしか考えねえてめぇがッ…!』
やめてよ。兄弟でも、そんなことを言わないでよ……
『サッカーやってるお前を見ていると苛つくんだよッ…!!』
じゃあ、今まで私に向けてくれた笑顔も言葉も、全部、嘘だったの……?
『もう親父は居ねえんだよ…!俺ももう、お前を妹なんて思ってねえから……』
その言葉は今でも私の呪いだ。
『家族なんて下らねえ理由で、二度とサッカーなんてするな』