第3章 お前も一緒に来るか?
点滴を打って処置してもらった後、病院の外へ出た途端、沙織さんが振り向いて私の両肩を掴んで、迫るように言ってきた。
『充ちゃん。"うちのところ"(秋田)に来なさい』
渡りに船だったのは確かだった。
あのメディア達から逃れられるのであれば、
これ以上、父の尊厳を踏み躙られるような思いをするくらいなら。
逃げられるのならどこでも良かった。
でも、"ここ"(秋田)で良かったと、今でははっきり言える。
「昨日はお仲間さんがサッカーに誘ってくれたし、思わぬ助太刀が入ってくれて、あれ以上傷付かずに済んだし、転校してからは良いことが多いよ」
身体ももちろん、心も含めて、傷が深まることを避けられた。
それどころか、私のサッカーを認めてくれた。
久しぶりの高揚感。
自分の"好き"は、他人に肯定されれば、もっと好きになれる。
(父さんが幼い私を見てくれるようになったのは、"好きなサッカー"を肯定してくれたからだ……)
そんな感覚を思い出させてくれたのは紛れもなく……
逸崎は國神を見上げた。
「!」
「昨日から、助けくれたり誘ってくれたりと、こっちが貰ってばっかで、フェアじゃないけど……その…色々と、ありがと」
逸崎は言葉の後半でそっぽ向いてしまう。
素直な感謝の気持ちを直接伝えるには、隣り合わせは近過ぎて、心臓が持たない。
嬉しい気持ちが、言葉以上に面に表れて溢れてしまいそうで、顔を見られたくないと思ってしまう。
「……あ、ああ。逸崎が楽しければ良いんだ」
國神も満更でもなく、ぎこちない逸崎の感謝を素直に受け取る。
互いに気付かない中、頰を赤らめていた。
そうこうしているうちに、プリクラを撮り終わったメンバーが次々と出てきて、皆と合流する。
印刷したての写真をハサミで切り分けて、皆がワイワイと交換している中、2人は同じような気持ちを抱く。
((もう終わりか……))
さっきまで共有していた秘密の時間。
他の人達は知らない、サッカーという特別な繋がりを持ったアディッショナルタイム。
次に話せるのはいつだろうと、密かに互いを意識しながら、皆でモールを出た。