第3章 お前も一緒に来るか?
「そういえばお前、「病気がちだった」とも言っていたよな…?」
「……うん。転校してきたのも、環境を変えるためでもあるんだけどね」
逸崎は水筒を飲んで口を離す。そして静かに語る。
「東京の世界は確かに広いよ。美味しい食べ物もスポーツ用品も、何より私のようにサッカーを志す人もいっぱいいたし、信頼できる人達もいた。でもね……人が多くいるってことは、その分、一箇所に色んな考えが混在して、ちょっとしたすれ違いでも、大きな亀裂になっちゃうんだよ」
「……」
東京から引っ越してきた謎の転校生。
案の定、その裏には色々と辛いことがあったに違いない。
それも、好きなはずの"サッカー"について。
「確かに、サッカーは好きだったよ。でも私は…國神くんほど、正々堂々と逆境に立ち向かって、やりたいことを貫き通す強さがなかった……それだけだよ」
言い切ったところで、逸崎は今更ながらに後悔する。
何言ってんだ私?こんなこと、言ったところで迷惑じゃないか。
昨日出会ったばかりで、しかも助けてもらった相手に対して。
聞かれたとはいえ、重苦しい転校事情を話すなんて……
「東京の学校にいた奴なのか?」
「!」
國神は逸崎に聞いてきた。
「お前を、そんな風に追い詰めたのは」
真剣な眼差しとその表情には怒りも込められており、明らかに
・・・・・・
昨日のような様子になっている。
逸崎は慌てて答える。
「だ、大丈夫だよ。環境が変わったおかげで、今は普通に学校に行けているし、全然!國神くんが知らない人だから」
落ち着かせようと必死に見繕う。
「それに、昨夜ね……久しぶりに思えたんだ」
「?」
逸崎はフッと笑って言う。
「『ご飯美味しいな』って」
"あの事件"以来、口に入れられるものは限られてしまい、ただただ"苦しい"という気持ちが、喉奥から込み上げて、食欲を阻害した。
担任の先生や沙織さんの目から、その変化は明らかで、連れて行かれた病院先でも言われた。
このままだと命に関わると。