第1章 ヒーローみたいですね
ギャラリーに混ざって熱心に観戦していると、いつの間にか夕暮れ時になる。
スコアは正堂学院高校側がリードして、残り時間を考えて、勝ちは決まっている。
しかし、高校生の休日のちょっとした練習試合でも、その場にいる誰もが目の前の"戦場"(バトルフィールド)に魅せられていた。
その要因の一つとして、謎のミッドフィルターである女子の存在があった。
國神だけでなく、他の観客も隣人とヒソヒソ噂をして、「何で女の子が?」と同じ反応だった。
(やっぱ見覚えがねえな。何でうちの部に交じってサッカーしてんだ?)
そんな疑問もあるが、それ以上に感心もしていた。
試合終盤でも、"ソイツ"は息を切らすことなく、パスやドリブルのプレーにブレがない。
細い体格から見て身軽そうだから、体力はかなりある方だ。
正堂学院高校側がボールを奪い取り、全員が一気にゴールへ突っ走った。
残り20秒。敵チームは奪い返そうと必死に攻める。
ボールは弾かれて、ゴール近くのコートの縁まで飛んでいく。
「!」
その先には、すでに"ソイツ"がいた。
"弾けろ"
ダァンッ!
急角度からの美しい曲線を描いたシュートが放たれた。
キーパーの手の平を飛び越えて、ゴールが決まった。
ピーッ!
試合終了。
ウォォォッ!
チームメイトの歓声と相手チームの悔しそうな無言の狭間で、國神はその試合を見届けた。
最後にゴールを決めた女子は、同じチームの男子に囲まれて色々と話しかけられている。
「すげえなお前!女子の割にやるじゃねえか!」
「よく打てるな!!あんな急角度のシュート」
「LINE教えてよLINE」
ギャラリーでその光景を見ている國神は完全に蚊帳の外だった。
ふと相手チームに視線を変える。
「ん?」
相手チームのフォワードにいた内の何人かが、正堂学院のチームを遠目で睨みつけていた。