第3章 お前も一緒に来るか?
逸崎は下駄箱から靴を取り出して、すり替えるようにして上履きをしまう。
外に出ると、目に入ったのは水浸しのグラウンドで、
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いつも教室の窓越しに眺めていた
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サッカー部の練習風景は無かった。
「……帰ろ」
手に持っていた菓子箱をうまくスクールバックにしまいこみ、グラウンド側を横断する。
いつもなら色んな部活動が各々のテリトリーで頑張っている場所だ。
特にサッカー部は特別。道具はボールのみで、己の足と体で操り、奪い合っては勝ち取る。
強豪校ってだけあって、基礎をはじめとした練習量や体力作りも、中学で見たそれとは訳が違う。
逸崎はふと足を止めて、誰もいないグラウンドを見渡す。
いつもはそこで頑張っているサッカー部の人達の勇姿を思い起こして、水面上の景色に当てはめる。
ちゃんと自分を持っている人達。夢を持っている人達。自分の為にサッカーができる人達。
私とは全く違う人達。
自分が決めた目標や理想のためにグラウンドをかけていくその姿は、何よりもかっこよくて、その分自分が情けなく思えてしまう。
私はサッカーをするべきじゃなかった。
自分の為にサッカーをしていなかった。くだらない理想像を他人に押し付けていた。
だからこうやって逃げてきた。私は強くなんかない弱虫だ。
逸崎は澄んだ青空を見上げる。
(見ているだけで十分だ。もう私は……)
「逸崎ッ…!」
「!」
驚いて振り返ると、國神が来た。
「え?どうしたの?」
國神は走って少し乱れた息を整えてから、正門の反対の方を親指で差して言う。
「これから部活の奴らと買い出しに行くんだが、お前も一緒に来るか?」
「!?」
鳩に豆鉄砲を食らったような顔になってから、恐る恐る聞く。
「何で私も…?」
「うちのサッカー部のマネージャーが、お前と仲良くなりてえって。どうだお前も?」
「……」
逸崎は間を空けたが、苦い表情のまま遠慮がちに言う。
「私、サッカー部とは関係無いし、邪魔にならない?」
「ならねえよ。誰もそんなこと思ってねえよ。むしろ来て欲しいって言ってる。お前だって本当は、皆ともっと仲良くなりたいんじゃねえか?」
「……」
逸崎は黙り込んで俯く。