第3章 お前も一緒に来るか?
「それで、用って何なの?」
さっきから判然としない國神に対して、逸崎は首を傾げて聞く。
「ああ。これ、うちの母親から。送ってくれたお礼」
國神は菓子箱を差し出す。
「えッ、そんな…わざわざ気を遣わなくても……」
「東京から転校したなら、秋田の菓子も物珍しいだろうって。良かったら沙織さんともらってくれ」
「……ありがとう」
逸崎は借りた本を持ち替えて、片手をフリーにして受け取る。
「助けてもらったのに、貰ってばっかだな……」
その表情は相変わらず固いというか、嬉し顔よりも困り顔に近い。
「……それ、学校でも着けるんだな」
「え?」
國神は自分の首に指を当ててジェスチャーする。
「ネックウォーマー。9月にしちゃ早くないか?」
先輩の受験勉強ほどじゃないが、まだ長袖制服に切り替わったばかりだから、逆に暑そうに見える。
昨日、他校生に絡まれた際に強く掴まれた跡が残っているんじゃないかと、國神は心配するが、逸崎は首を振って否定する。
「あぁ…首元出していると落ち着かなくて。タートルネックは校則で禁止されてるし……そういえば部活もう終わったの?」
「昨日の雨でグラウンド使えねえから、筋トレメニュー終わった奴から帰れるんだ……それよりお前、身体の方は大丈夫なのか?」
さっきから國神から心配されてばかりで、
逸崎は「相変わらずお人好しさは健在だな」と内心思っていた。
そして自分の足元を指差してジェスチャーする。
「筋肉痛。自宅でも筋トレ心掛けている頑張り屋さんの國神くんと違って、運動不足かな」
嫌味ではなく褒め言葉で言ったつもりだったが、國神は黙りこんでしまった。
「ごめん。気に障ったなら……」
「そういうことじゃねえだろ」
低い声で言葉を被せるように食い気味に言われ、逸崎は目を丸くする。
「不足してんのは、運動量って話じゃねえだろ」
「え…」
逸崎は一歩引くが、國神はそれ以上に詰め寄る。
「お前…本当は……」
「國神ー!一緒に帰ろーぜー!」
またしてもタイミングが悪く、筋トレを終えたサッカー部のチームメイトが声を上げて寄ってきた。