第3章 お前も一緒に来るか?
部室にある鏡を一瞥すると、そこには國神が今まで鍛え上げた自身の上半身が写っていた。
中学まではこのフィジカルの良さを活かして、ボールを奪えたし相手の攻めのプレーにも怯むことなく対抗して、試合ができた。
しかし、高校に入ってからは、フィジカル以上にすごいプレーができる先輩が何人もいて、観てきた世界の常識を覆された気がした。
いくら自宅でも筋トレして、1年の誰よりも早く練習をこなせたとしても、試合に出られなきゃ意味がない。
どうすればレギュラーになれるのか。
その方法が未だに分からず、夏休みが明けてしまい、國神はここ最近悩んでいた。
学ランに着替えながらもなお考える。
(今の俺に足りねぇモンは何なんだ…?)
いや、答えは明白だ。自分にしかねえ武器を持ってないからだ。
シュートの射程エリアまで行き抜けるドリブルやスピードは、他の先輩の方が上手い。
フィジカルだけじゃダメなんだ。俺にもそんな風にゴールを取れる武器があれば……
"弾けろ"
ピタッ
國神は部活着をバッグにしまう手を思わず止めた。
ふと、再び思い出した。昨日の逸崎のプレーだ。
最後のシュートを決めた瞬間の、彼女の爽やかな表情をよく覚えていた。
(真剣勝負そのもので、自信に満ち溢れていたアイツのサッカーは、
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あの場の誰よりもストライカーらしかった)
だけどアイツは……
國神はさっきまでとは違う意味での深刻そうな目つきに変わり、
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雨の中で別人のようだった彼女を思い出す。
『本物のストライカーっていうのは、私と一緒に試合してくれたチームメイトやあなたのような人だ。私の技術は、弱い力を誤魔化すためのテクニックに過ぎないから』
『私は、サッカーには向かない』
「……」
國神はそんな彼女の昨日の態度について、
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引っかかっていた。
女子やら男子やらで、身体的に優劣がつくのは仕方ない。
しかしそんな逆境の中でも、逸崎は小さい頃からずっとサッカーをやってきたことは、沙織さんから聞いている。
(そんなアイツが、あんな風に自分のサッカーに自信を無くしたのは、一体……)