第2章 また明日な
楕円を描くような綺麗なコースのシュートと、その精密なプレーを生み出すための正確でブレのない体と足さばきの動き。
男やら女やらで分別する気は全くないが、それでも、とても女子とは思えないくらいの軽やかなプレーだった。
あんな動きを体得するまでに、今までどれくらいやりこんで……
「……向いてねえなんて、何嘘言ってんだよ」
届くわけもないのに、彼女への疑問が独り言として口に出た。
國神がサッカーを始めたきっかけは、己の強い力を律するためでもあり、それがスーパーヒーローになるという目標に繋がった。
目標があるからこそ、ハードなトレーニングにも自ら率先してできるし、サッカー部でもレギュラーを取れるように諦めずに頑張れる。
誰だってそんな強いがあるから、勉強や部活に限らず、好きなことでもたとえ辛いことがあっても頑張れる。
アイツにも目標や夢があったはずだ。だからこそ、あんなプレーが実現できる。なのに……
(きっかけも忘れちまうくらいの何かが、あったってことか…?)
國神は風呂上がり、着替えて髪を拭いている時も、逸崎の事を考えていた。
どっかの漫画の名探偵ではないため、考察したところでただの想像に過ぎない。
そもそも、今日知り合ったばかりの奴の事をすぐに理解しろという方が無理がある。
なのに……
「……」
國神は髪の毛を拭く手を止めて、その頭の中で言われた言葉を反芻する。
『サッカー部で誰よりも熱心にサッカーやっていますよ』
(何で俺の事知っていたんだ…?)
他にも気になる事も言っていた。
『もし母親がいたら、きっとサッカーやっていなかっただろうし』
あの言葉の意味は、一体どういうことなのか……
「……充」
試しに名前を言ってみたら、段々とこそばゆくなっていく。
カァァッ
まだ乾き切っていない髪のままで、急いで自室に戻って篭る。
(何なんだよ。これッ……)
胸に手を当てると、心臓がバクバク動いていて、明らかにいつもとおかしい。
運動した後だからとか、風呂上がりとかではない。
中学でも似たような経験があった
・・・
これは、まさか……