第2章 また明日な
「そういう國神くんは、何でサッカーやっているの?」
逸崎は"嘘"をついたことにちょっとした罪悪感はあったが、純粋に國神のことを知りたいと思っていたため、自然と聞けた。
「……ヒーローに、なりたいからだ」
國神は恥ずかしがることなく、自分の生い立ちや自分にとってのサッカーを逸崎に教えた。
かつて自分は、小学生の割に体が大きく、周りと比べて一際目立つ存在だった故に、いじめのターゲットになった事があること。
その時に姉が庇ってくれ、傷を負わせてしまった事で、怒りが爆発し、いじめた奴ら全員をボコボコにしたこと。
そんな経験があったからこそ、スポーツというルール内での領域で、自分の底知れぬ力を奮って、人々に感動を与えられるような存在になりたいと、目標ができたこと。
戦隊ヒーローでも、ロボットでも、海賊王ではなく、実際に存在するサッカー選手達。
緑の芝生を駆け巡って、勝利のためにゴールを奪うストライカーたちだった。
「俺はなりたいものになるために、正々堂々と戦って勝ち取る。俺はそのためにサッカーをやっている」
「……そうか。それが君の原点か」
逸崎の表情は心なしか穏やかになり、國神はその変化に気付く。
「!」
好きなサッカーを否定されるように暴行を加えられた後で、さっきまで顔色が悪かったが、今ではすっかり元に戻っている。
しかも……
「……でも君は一つ間違えているよ」
「!」
何を言い出すかと思いきや、逸崎はあっさりと答える。
「だって、もうなれているじゃん。人を助けられる優しいヒーローに」
!!
そのタイミングで、玄関口から車のエンジン音が聞こえてくる。
沙織さんが車の準備をしてくれた合図だ。
「早く行こ。きっと家族が心配しているから」
「あ、ああ……」
逸崎の背中を追い、國神は車の後部座席に乗り込んだ。
「じゃあ!出発しまーす!國神くん!荷物は全部持ったかな?」
「はい。大丈夫です」
沙織さんの号令で車は國神の家に向けて発進した。
この時、國神は思った。夜で視界が暗くて良かったと。
何故なら國神は、隣の逸崎の優しい言葉が頭から離れず、頬を赤らめていたからだ。