第2章 また明日な
「……俺は、アイツのサッカーが間違っているなんて、全く思いません」
「!」
國神の言葉で、沙織さんの顔つきが変わる。
「たとえアイツのサッカーを否定する奴がいたとしても、俺は、正々堂々と自分の力で戦って証明するアイツの強さの方を信じます。会ったばかりで偉そうかもしれないっすけど、今日のアイツのプレーを見て、何か…そう思ったんです」
今日出会ったばかりで、話せることは限られているが、短い時間の中でも分かることだってある。
國神の瞳には嘘偽りはなく、逸崎のサッカーに対する確固たる信頼を秘めていた。
過去に何があって、何でサッカーをしているかもまだ知らない。
でも、友達になってみたい。サッカーを含めて、彼女のことを知ってみたい。
國神はそんなことも考えていた。
「……」
着替え終わっていた逸崎は、すでに1階に降りており、その会話に聞き耳を立てていた。
部屋の出入り口の戸の死角で、自分の胸元あたりの衣服をギュッと握りしめて、感情を抑える。
"嬉しい"と"辛い"の両方が入り混じったこの複雑な感情を、どこにぶつければいいんだろうか。
(……とんだ"お人好し"が)
ネックウォーマーの下で隠れた唇を噛み締めていた。
「……そう。あの子のこと…そう思ってくれるのね」
沙織さんは突然感涙にむせび、國神は慌てる。
「あ、あの……」
「……ごめんなさい。少し、嬉しくて」
涙を拭って、またいつもの明るい笑顔を作る。
「ありがとう。あの子の友達になってくれて。これからもよろしくね」
「あ、はい…」
「あのー、お取り込み中失礼しまーす」
!
台所の出入り口側で、話の張本人である逸崎がすでに立っており、冷めた表情で沙織さんを見ていた。
「逸崎!」
服もとっくに着替えており、新しいネックウォーマーも付けている。
スウェットとズボンで、着替える前とさほど変わらないスポーツ着で、正直着替えた印象は無い。
「いい年した女の人が、男子高校生の前で何泣いて困らせて何してんですか?」
身内にはかなり辛口であった逸崎である。