第2章 また明日な
「!」
逸崎は驚いて目を見開く。
また少し人らしい一面が見れて、國神は内心少し嬉しく思った。
それくらい逸崎はどこか悲しそうで、言うことも悲観的で、どこか放っておけないような、そんな危なさを秘めている気がした。
「確かに自分に向いてる物と好きな物が同じだとは限らないかもしれねえ。だがそれ以上に、自分が好きで続けてきた。それだけで十分じゃねえか?」
「……」
男女の力の差は置いといて、逸崎のサッカーは、純粋に上手だった。
男子同士の肉弾戦や力強いシュートは確かに難しいかもしれないが、目を奪われるような魅力や演出は確かにあった。
國神にとっても、女子サッカーに興味が湧くくらいの影響力があった。
そんな励ましの言葉に、少し心が動くものの、逸崎の表情は相変わらず浮かないままでいた。
「……そんな簡単なことじゃ」
「あれ?!充ちゃん?」
『!!』
甲高い母の女性に呼ばれて、國神と逸崎は同じ方向を見る。
そこには髪の長いカジュアルコーデの女性が傘を差して立っていた。
仕事帰りなのか、傘を持っていない方の手にコンビニの袋をぶら下げていた。
「沙織さん?もう家に帰ったんじゃ」
逸崎がそう聞くと、遠慮なしに距離を詰めてくる。
「ちょっ!相合傘なんて洒落てるな〜ッて後ろから眺めてたら〜ッ!ちょっと〜!まさか充ちゃんなんて〜ッ!」
かなりハイテンションで逸崎に話しかけており、國神は同じ傘の中でも蚊帳の外だった。
(てか今、充って呼んだよな?)
さっき借りたタオルに書かれていた名前。確か「透」って……
「でぇ?アナタいつからそうなっていたの?できたなら教えてくれてもいいのに〜!」
「違います。ただの友達です。1時間弱前になったばかりですけど」
性格やテンションはまるっきり違く、逸崎は冷めたような表情でその沙織さんという人と接している。
逸崎と親密な関係の人だとは分かった。
「ま!ま!取り敢えず家に行きましょ!アナタにも話を聞きたいわ。充ちゃんのお友達さん」
「あ、はい」