第2章 また明日な
國神が言葉も行動も優しいということは、出会って30分でもとっくに分かっていた。
しかし、その優しさを核心をつくように使われると、言葉が上手く出なくなってしまう。
そんなに優しくされると、勘違いしてしまう。
甘えたくなってつい言ってしまいたくならないよう、頭の中の邪心を払う。
出会って間もないただの"お人好しヒーロー"さんに、"あの過去"を
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知られるわけにはいかない。
「……いいんだ。慣れているんだ。ああいうこと言われるのは」
肩についている國神の腕を解いて、傘から出た。
「おい。まだ雨降ってん__」
「女子はね、サッカーするにおいて男子には絶対勝てないんだよ」
小雨に濡れながら、國神に背中を向ける。
「いくら技術を身に付けても、女子最高記録叩き出しても、男子高校生どころか男子中学生にすら劣るって言われている。さっきの不良達が言っていることは、案外的を射ているんだよ」
振り返ったその顔は、悲しそうな微笑みであり、雨は彼女の心の内を表しているようにも見えた。
「本物のストライカーっていうのは、私と一緒に試合してくれたチームメイトやあなたのような人だ。私の技術は、弱い力を誤魔化すためのテクニックに過ぎないから」
物静かな奴が急に喋り出して國神は聞き入ってしまったが、ハッとなる。
「いいから早く傘に入れよ。濡れると本当に風邪引くぞ」
しかし逸崎は逆に距離を取って、傘に入りたがらない。
何故なら、國神のそばにいると、調子が狂うから。
サッカーが上手くなるのに憧れていたかつての自分に、戻ってしまいそうな気がしたから。
「いくら頑張っても、誰だって出来ないことだってある。中学に入る前には既に悟ったよ。私は、サッカーには向かない」
「……」
國神はそっと傘を差し出すと、逸崎は顔を上げた。
「でも、今でもサッカーしてんのは、好きだからだろ?」