第2章 また明日な
お互いにある程度髪を拭き終わると、逸崎は自分の荷物から折りたたみ傘一本を取り出した。
「!」
「これ使って」
なんの変哲もない紺色の無地の傘だった。
さっきから貰ってばかりで、彼女なりの助けてもらったお礼なのか。
神様やら仏様やらと思われているのだろうか。
國神は借りたタオルと交換するようにおもむろに受け取ると、逸崎はタオルをしまう。
「別に返さなくていいから。じゃ気をつけて」
荷物を持ってそそくさと立ち去ろうとする。
しかし國神が肩を掴んで止める。
「ちょっと待てよお前の傘は?」
「家にある」
「そうじゃねえよ。今手元にないのかって聞いたんだ」
逸崎は首を横に振り、大丈夫だと答える。
「私が今住んでいるとこ、ここから走って5分だから」
どうやら土砂降り雨の中でダッシュで帰るつもりらしい。
「いやいや風邪引くだろ。しかも、さっきまでばてていた奴がこんな豪雨の中ランニングすりゃ滑るかもしれねえし、危ないし、何より余計体調悪化させるだろ」
「そんなのやってみなきゃ分からないよ」
「分かれよ。ていうかやるなよ。傘忘れたのは俺だろ。お前が使えよ」
「アナタの家、ここから遠いでしょ。私は帰ってすぐ風呂沸かして入ればいいし」
「そういう問題じゃねぇって」
傘とかタオルとか譲ってくれる優しい奴なのか、自分のやりたいようにやらないと気が済まないエゴイストなのか。
どっちなのかよく分からない奴だ。
國神にとって、出会ったばかりの頃の逸崎とは、"変わった奴"という違う名前の持ち主であった。
「……はァ。分かった。貸してもらう」
國神はそう言いながらも、傘を逸崎に差し出す。
「?」
「ただし、
・・・・・・・・
お前が使った後だ」