第7章 7夜
『・・・・え?』
「その荷物。」
その目は手元のキャリーケースに向けられている。
『あー…はい。契約が終了したんで…。』
「ふーん。」
『・・・・。』
大して興味なさそうな顔でそう言うと持っていたフォークをトレーに置いた。
「お嬢がアンタのこと、随分気にかけてたみたいだけど。」
『・・・・お嬢?』
「あー…千切。赤い髪の。」
『・・・・。』
"俺、もうここには2度と来ないから"
千切君の言葉が蘇り胸がチクッと痛む
ーーーーもう、千切君と会うことはない。
『千切君には応援してます、って伝えて下さい。』
口に笑みを貼り付けた私を凪君はじっと上目遣いで見つめると、不思議そうに顔を傾けた。
「・・・・ねぇ、何でそんな顔してんの?」
『え…?顔…?』
「うん。辛気臭い顔してる。」
『・・・・辛気臭いって。』
ストレートな物言いに戸惑うも、凪君はお構いなしに続ける。
「アンタの仕事のことは何となく知ってるけど、ここから出れるって嬉しいもんなんじゃないの?」
『・・・・。』
「今のアンタ、全然そんな風に見えないから。」
凪君の言葉に思わず自身の顔に手を当ててみる。
私……そんな辛気臭い顔、してる?
確かに表情が豊かなタイプじゃないけど2回しか会ったことのない凪君が言うんだからよっぽどなのかもしれない… 。
だとしたらーーーーー
らしくない。
ここでの仕事はもう終わったんだから切り替えないと。
ここを出れば元の生活に戻るんだから後ろ髪引かれてる場合じゃない。
気持ちを引き締めるように口元をキュッと結ぶ。
そんな私とは反対に凪君はふぁ〜…と欠伸をもらすと興味が無さそうに「まぁ俺には関係ないけど」と再びテーブルに突っ伏してしまった。
(・・・また寝た?
ほんとマイペースな人だなぁ…。)
このまま放っておいていいものか考えていると、食堂の外から誰かが走ってくる足音が聞こえて来た。