第6章 6夜
沈黙が数秒続いたところで彼はカップを置くと、徐に口を開いた。
「俺さ……ここに入るまでは欲しいものは何でも手に入ったんだ。望むモノぜんぶ。
そういう環境だったってのもあるけど、昔っから器用でやる事全部そつなくこなして。
嫌味に聞こえるかもだけど、挫折とは無縁に生きてきたんだ。」
『そう、なんだ…。』
嫌味っぽくは聞こえなかった
多分それは"挫折とは無縁に生きてきた"と話す表情が今まさに挫折しているかのように苦しげに見えるからーーーー。
「・・・そんな生活が退屈で仕方なかった。
でも、ようやく見つけたんだ。本気で欲しいって思えるモノ。」
『・・・・それがサッカー?』
「あぁ、W杯の優勝杯。
それを手にするために俺はここに来た……
アイツと、、凪と約束したんだ。一緒に世界一になるって………」
険しくなる横顔が気になりつつも、聞き覚えのある名前にピクリと反応する。
(凪、、って確か前に食堂で会った人……だよね。
そう言えばモニタールームで会った時、映像にも映ってたっけ。
2人にはそんな繋がりがあったんだ……)
ーーーーそれなら、、、
『・・・・何でそんなに辛そうな顔してるの?』
私の問いに、彼は眉をぴくりと動かすと唇を噛み締めた。
「凪は俺の相棒で宝物、、、
夢を叶えるその日までずっと一緒にやってくと思ってたし、そう約束した。
けどーーーーー
今の俺じゃアイツの隣に立てない…。立つ資格もない……。」
『・・・・。』
「自分がこんなに弱い人間だったなんて知らなかった………
すげースピードで進化して変わろうとしていく凪の背中を押してやれなかった………
怖かったんだ………置いてかれそうで。
2人でみた夢が消えて無くなるような気がして……ホント情けねーよな………」