第1章 イライ・クラーク 〜催眠〜
コツ…コツ……と、2人の足音が廊下に響く。
現在時刻は午前3時。本来ならば人々は寝ている時間だろう。
「イライ君。私はただ知りたいだけなんだよ。この世の最高の快楽をね」
そう言いながらずっと付いてくる女は。快楽の追求のために荘園にやってきたそうだ。
昨晩からこの調子でずっと後ろをついてこられている。
『ごめんね、さん。私では君のお手伝いは出来ないと思うよ』
「ふぅん?」
そう言いながら近寄って来る。
横目でチラリと様子を伺うと、可愛らしい顔で私を見上げていた。
……黙っていれば、可愛いのに。
そんな気持ちをグッと飲み込み、前を向き大股で歩き出す。
「待ってよイライ君、はやいよ」
当たり前のように腕を組んできたにどう対応するのが正解か分からず、私はそのまま部屋に戻ってしまった。
今思えば、全ての間違いはここから始まっていた。