第12章 【共同生活のすゝめ】
そう言えば、以前お邪魔させて頂いた時は歯が溶けるほど甘いクッキーが出てきたのを思い出した。あれを回避できたのは運が良い。
隣に座るドラコは「ビスケットすらないのか」と眉根を寄せ小さくボヤいていた。それが聞こえているのかいないのか、先生はずっとニコニコ笑っていた。
クリスは懐かしい先生のログハウスの中を見渡しながら、ある事に気づいた。
先ほどルーピン先生は、近頃は全くこっちに来ていないと言っていたが、たまった洗濯物やたばこの吸い殻、さらには明らかに寝起きの跡があるベッドなど生活感があふれている。
「先生、この家ってもしかして――?」
クリスが問いかけた瞬間、扉の外でパチンッと姿現し独特の音がした。咄嗟にクリスとドラコは身構えたが、ルーピン先生は相変わらずニコニコしている。
すると蹴とばすように扉が開き、そこに立っていたのはなんとシリウスだった。
「――おい、リーマス!!クリスとマルフォイが一緒に居るって本当なのか!?」
「やあシリウス、君にしては遅かったね」
折角はりきってパトローナスを飛ばしたのに、と先生はちょっと残念そうに……いや、悪戯が見つかった子供の様に笑った。
またドラコは、いきなり姿現ししてきたシリウスに向かって明らかに警戒のこもった瞳で睨みつけた。
「シリウスって……あのシリウス・ブラックか?」
ドラコとしては一応『例のあの人』から離反したつもりなのだろうが、不死鳥の騎士団員であるシリウスを前にして、過剰に反応するところなど、まだまだ染まり切れない所が多いようだ。
一方シリウスもシリウスで、明らかに歓迎ムードとはほど遠い、冷たい視線でドラコを捉えた。
「どうしてお前がこんなところに居るんだ?」
「僕はただクリスについて来ただけだ、それが不快か?」
「ああ、不快だとも。ルシウス・マルフォイがどれほど死喰い人として暗躍していたことか!現にクリスの父親は……!」
「2人ともそこまでだ。これから一緒に暮らすのに喧嘩腰は良くない」
「「「一緒に暮らす!!???」」」