第10章 【世界征服ごっこ】
危険と言えば――クリスは再び絵画に描かれた祖父に質問を投げかけた。
「なあ、この地下に杖は余ってないのか?私が今使っているのはベラトリックス・レストレンジという純血主義の女の杖で、出来ることならへし折りたいくらいなんだ」
「レストレンジという名の純血主義……?と言うと、また『例のあれ』が皆で仲良く手をつないで世界征服ごっこをしているのか?」
「「世界征服ごっこ!?」」
今、このグレートブリテン島を中心に、じわりじわりと人々の間で不安と恐怖がはびこり、みんな怯えて暮らしているというのに……。
それをまるで子供の遊びのように「世界征服ごっこ」と言い放ったこの祖父に対し、今度はドラコだけでなく、クリスも同じように驚いて口をポカンとさせた。
「そうだろうが。自分は決して表に出ず、コソコソと蛇の様に地面を這いずり回ってばかり。学生の頃から何ひとつ変わらない。怖がりで、臆病で、寂しがりやのトム・リドル坊やのままだ。表で堂々と美味い汁をすすらずに、裏に回って何を粋がっているのやら。儂からしたら滑稽で仕方ない!」
また祖父曰く、歴史的に見たらイングランド王達の方がよっぽど凶悪だった。そう言いながら喉の奥で笑う祖父を前に、クリスは一つ疑問を投げかけた。
「それじゃあ彼方は、生きていた当時も『例のあの人』側ではなかったのか?」
「当たり前だ。先ほども言ったが、頼りになるのは自分の力だけだ。ただ唯一つどうにもできなかったのが死だ。迫りくる死だけはどうしようも出来なかった」
言いながら、突然祖父の赤褐色の目が遠くを見つめだした。
それは確かにヴォルデモートとは違う、孤高で、隙が無く、何物も寄せ付けない冷たい目だった。
その瞳を見つめながら、クリスは父のクラウスのことを思い出していた。父であるクラウスの目も、同じように人を寄せ付けない闇の色をしていた。