第9章 【例えこの先に何があっても】
オリバンダーさんの言葉を聞いて、明るく捉えられはしなかったが、クリスはやっと心の落としどころを見つけた気がした。
今はベラトリックスの杖で我慢しなければならないが、時が来ればきっと良い杖に出会えるだろう。
そんなことよりも、一番の大仕事なのは人質たちの解放である。あのベラトリックスが気絶しているといっても、この屋敷には狼人間や人さらい、更に『死喰い人』も沢山いる。
それを踏まえた上で、どう脱出するかをよく考えるよう言ってから牢屋から立ち去った。
また先ほども言ったが、クリスはどうにかルーナだけでも逃がしてやりたかった。だがそのルーナが極力「全員が無事に出られる方法を考える」と言ったのだ。
流石はレイブンクロー寮生、こんな切羽詰まった状況でさえ思慮と冷静さを忘れないなんて、やろうと思っても出来ることではない。クリスはルーナのこの才能を大いに尊敬した。
「それじゃあルーナ、またどこかで会おう」
「うん、それじゃあまたねクリス」
クリスとルーナはまた会えることを約束し、握手をして地下牢を去った。
* * *
長い廊下を走りながら、ドラコは後どれだけ猶予が残っているのかを考えた。
おそらく勘の良い連中は、与えられた10分を超しているいることに気づき、動き始めているはずだ。
気づいて襲ってくる前に、ドラコは恐らく父親がいるであろう、大広間からほど近い応接間の扉を勢いよく開いた。
「父上、母上、ご無事ですか!?」
「ドラコか!貴様、クリスの説得はどうなった!?」
ベラトリックスの妹であるナルシッサがやっとの思いでもぎ取った貴重な時間だ。通常なら、そういう言葉が返ってきて当たり前だろう。
だが次のセリフは、当たり前とは遠く離れた言葉だった。
「父上、母上、今すぐお逃げください。僕はクリスを連れてこの屋敷を出ます」
「あぁ、ドラコ……」
ナルシッサは泣きながら息子を抱きしめた。多分これが今生の別れになることをも予想しての行動だろう。
いや、ルシウスさえも、もしかしたらそうなると頭の隅で予感していたのかもしれない。
ドラコなら、クリスの為にどこまでもついて行くと。
だが、それでも父として問わねばならなかった――。