第9章 【例えこの先に何があっても】
「ドラコ、私と一緒にルーナが連れてこられたんだ。ルーナを助けなきゃ!!それと召喚の杖も取り戻さなくちゃならない!!」
「チッ、相変わらずのお人よしめ……。じゃあ君は魔法でベラトリックスを牢に連れて行って、ついでに牢の奴らを開放してこい!召喚の杖はきっと父上が持っているはずだから、僕が行って父上から預かってくる」
「分かった!!」
とは言ったものの、今クリスの手に杖はない。そして悲運とはまさにこのことか、今目の前に転がっているのは、ベラトリックスの杖だ。
本当の本当に、すごく嫌で嫌で仕方なかったが、余っている杖はこれしかない。クリスは持ち手の部分にハンカチを巻くと、魔法で拘束したベラトリックスを地下牢まで運んだ。
馴染みのない他人の杖を使うのは非常に扱いづらく、どうしても雑な運びになってしまう。その騒音と足音を聞いて、地下牢の住人たちが騒ぎ始めた。
「なんだ、誰が来たんだ!?」
「もしや『死喰い人』たちか!?」
地下牢はすごく暗く、何人の人達が収監されているのか分からなかったが、取り合えず気絶したベラトリックスを小さな鉄格子の部屋に寝かせると、杖灯りを付けてルーナを探した。
「ルーナ!どこにいる!?君を助けに来たんだ」
「あたしはここだよ、だけどあたし1人だけじゃ逃げられない」
「どうして!?」
「牢屋の奥にオリバンダーさんが居るんだ。ずっと長い間牢屋にいたから、体がすっかり弱っちゃってるんだもん。見捨てらんないよ」
「オリバンダーさんがいるのか!?」
クリスは部屋の隅でうずくまっているオリバンダーさんを見つけると、申し訳ないが憔悴しているのを分かった上で、川でおぼれて杖を失ったことを正直に話した。するとオリバンダーさんがこう言った。
「杖は人を選び、時として成長を促すもの。杖が貴女から離れていったのであれば、それは貴女の杖が、貴女のために離れるべき時が来たと悟ったからでしょう」
「それじゃあ、新しい杖は?」
「今持っているのはベラトリックスの物ですね。大丈夫、恐れずともじきに手放す機会が訪れます。その時まではその杖で我慢するしかないでしょう」
「……そうですか、わかりました」