第8章 【相思相愛】
「お願いよクリス、もう分ったでしょう?これ以上抵抗を続けても意味がないのよ。これ以上酷い目に会う前に、私たちの仲間になりなさい」
「すみませんがおば様、私は父を殺した相手と手を取りたくはありません」
「そのことについては、ルシウスもとても心を痛めているのよ!それに加えて、貴女も失ったらルシウスはどれほど悲しむことになるか……」
先ほどナルシッサ自身が言っていたように、クリスの母代わりをしてくれたおば様には感謝しかない。
けれどそれとこれとは話が別だ。それをいくら伝えてもナルシッサは泣くばかりで、クリスもどうすれば良いのか戸惑っていた。すると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「母上、僕です。少し良いですか?」
「ドラコ!?良かった、さあ、入って頂戴」
ドラコは部屋に入るとクリスを一目見ることすらせず、母であるナルシッサに近寄った。相変わらず顔面蒼白で、さらに目の下の皮膚の薄い部分は青黒くなっていた。
「母上、さぞお疲れでしょう。クリスの説得は僕がやります」
「でもドラコ……」
「それに父上も大層困っていらっしゃいます。お願いです、父上の傍にいてあげて下さい」
「……分かったわ、ドラコがそう言うなら」
そう言うと、ナルシッサは最後にクリスの頬にキスをしてから寝室をあとにした。
扉が閉まると、ドラコはクリスに背を向けながらこう言った。
「状況は分かっただろう?お前に拒否権はないんだ、良いから投降しろ」
「嫌だと言ったら?」
「僕が磔の呪文をしてやるよ、ベラトリックス伯母上から習ったからな」
「じゃあそうしてくれ。それとも、いっそ一思いに殺してくれても構わないが?」
「……本気で言っているのかい?」
「ああ、今は杖も持っていないから完全に丸腰だ。好きなようにしてくれ」
これまで17年間、どれほど喧嘩をしても何だかんだと言葉を交わしてきたが、これほど淡々話したことはないだろう。
クリスは無抵抗を表すように両手を広げた。猶予として与えられた10分がどれほど残っているのか分からないが、多かれ少なかれこれ以上良くはならないだろう。
ならば最期に――と、クリスは頭を空っぽにして目をつぶった。