第8章 【相思相愛】
「何をしているの、ベラ!!この子はあのお方の御子なのよ!?」
「そうさ!でもこいつは血を裏切る者だ!!だからあのお方にお会いさせる前に、私が躾てやってるのさ」
そう言うなり、またしてもベラトリックスはクリスに磔の呪文を浴びせた。
「ぐあ”…ガが……あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っっ!!!!!」
クリスの口から出ている悲鳴ともつかない叫び声を自ら聞きながら、自身に「このまま狂ってしまえれば」と思わせるには十分の威力だった。
しかし相手も相手だ、クリスが正気を失う寸前になると魔法を止め、しばしの休息を与える。その緩急がどれほど地獄なのかを分かってやっていた。
ベラトリックスはもだえ苦しんでうずくまっているクリスの前にしゃがむと、杖先でクリスの顎を持ち上げた。
「さあて、そろそろ考え方も変わってきたかね?お姫様?」
「……臭い息を吹きかけるな、下種が」
言い終わると同時にベラトリックスの顔に唾を吐いた。とたんにベラトリックスはこれ以上ないほど怒りに震え、杖を大きく振り上げた。
その時、これまで見ているだけだったナルシッサおば様が、ベラトリックスの杖を懸命に抑えつけた。
「お願いよベラ!これ以上はもうやめて!!クリスには私が説得するわ。この子には強制させるより、きちんと話して納得させた方が良いのよ!」
「邪魔をするつもりかいナルシッサ!?」
「ええそうよ!そうやってクリスの母親に変わって、私が育ててきたんですもの!クリスは私にとって娘も同然なのよ!!」
「だが――!!」
「――お願い!お願いよベラ、私の一生のお願いよ!!」
そう涙しながら懇願する妹に対し、ベラトリックスはチッ、と舌打ちしながら杖を下ろした。
「10分だけ時間をやろう、ただし10分経っても我々に与しないなら、その時は分かっているね!?」
「ええ、ええ……ありがとうベラ」
こうして奇跡が、いや、母親の愛が10分と言う猶予を与えてくれた。
ナルシッサはクリスを寝室に連れて行くと、ベッドの端に座らせて涙ながらに語った。