第8章 【相思相愛】
そうこうしている内に、今度はルシウスおじ様が現れた。それも最悪なことに、ベラトリックス・レストレンジをつれてのご登場だった。
相変わらずのパンキッシュな服装に身を包み、クリスを見ると獲物を前にした蛇のように舌なめずりをしていた。
「ルシウスの報告を聞いた時は、まさかと思ったけれど本当に捕まるなんて。――久しぶりだねえ“闇の姫君様”」
ベラトリックスのあざける様な言い方と、それでいてゴミくず以下のモノを見下すような慇懃無礼な態度が、クリスの逆鱗に触れないわけがなかった。
逆に怒りの感情が上昇しすぎて、クリスの怒りは、スンッ……と静かな蒼き炎と化した。
「おい、ルシウス!召喚の杖がまだ回収されて無いじゃないか!!本当にのろまで役立たずだよ、私の義弟は」
その言葉にルシウスは眉間にしわを寄せたが、何も言わずクリスに近寄った。そのまま奪い取られるのかと思いきや、ルシウスは丁重にスッと手を差し出してきた。
「召喚の杖をこちらへ、闇の姫君」
「おじ様……」
「さあ、姫君」
クリスには分かった。これが今、おじ様に出来る精一杯の贖罪だと。
己の級友であり、クリスの育ての親でもあるクラウスを撃ち、さらにクリスに莫大な賞金を懸け、その上クリスの命以上に大切な召喚の杖さえ奪おうとしている。
それらについて何も思うところがないわけではないが、マルフォイ家存続のために最低限の体面は立たせる。ルシウスはそういう男だ。
そんなルシウスにクリスは戸惑いの色を見せたが、大人しく召喚の杖を渡した。
「さぁて、それじゃあ闇の帝王にお会いする前に、少し教育を施してやらないとねえ!」
そう言うと、ベラトリックスはクリスに磔の呪文を唱えた。すると心臓を数百本という細い針で突き刺されるような痛みと共に、電撃が体中を駆け巡るような激痛が襲ってきた。
それと同時に脳みそをぐちゃぐちゃにされるような、言葉では言い表せられない痛みがクリスの中で爆ぜた。
「ぐがあああああああっっ!!!!!」
壮絶なる絶叫が部屋いっぱいに広がると、ベラトリックスは歓喜に打ち震え笑った。
磔の呪文を受けたのは初めてではないが、それでもこのまま気がおかしくなりそうなほどの、激痛を通り越した苦しみは初めてだった。