第8章 【相思相愛】
「この娘は闇の帝王の娘です、そんな風にぞんざいに扱うなど以ての外ですわ!」
転んだクリスに寄り添ったのは、ナルシッサおば様だった。
ナルシッサは出来る限り優しくクリスを助け起こすと、『人さらい』たちをキッと睨みつけた。
「手配犯の護送、ご苦労でありました。ここからはわたくし達が取り仕切る故、あなた方は自分の任務に戻りなさい」
「なんだと!?俺たちが捕まえてきたのに、何もなしかよ!!」
「後に莫大な報奨金が出るでしょう。それ以外に、闇の姫君に何の用が?」
ナルシッサおば様の冷たく鋭い声が響くと同時に、扉が開いて1人の青年が入ってきた。それはやつれにやつれたドラコだった。
相変わらず無理やり『死喰い人』として働かされているのだろう、顔面は蒼白を通り越し、目には光がなく表情もなく、まるで本当に死人のようだった。
「それじゃあこいつはどうする?ラブグッド家の一人娘だ」
「そいつは地下牢につないでおきなさい、ポッターたちを捕らえるのに良い餌になるでしょう」
「待って下さい!お願いです、ルーナには何もしないで下さい!!私に巻き込まれただけで、これと言った罪を犯したわけでもないんです!」
「はあ?何を言ってるんだ?こいつ等が校長室からグリフィンドールの剣を盗み出そうとしたのを知らないのか?」
「そ……そうなのか、ルーナ?」
「うん、アンタ達の為にって思ったんだけど、失敗しちゃったんだ」
ごめんね、と最後に囁くように言うと、ルーナは『人さらい』の1人に連れられて部屋を出て行った。
クリスは自分の無力さをこれほど悔やんだことはなかった。世間では闇の姫君だとか、救済の天使だとか言われていても、友人1人助けることさえ出来ないだなんて。
クリスはプライドも何もかも捨てて、ナルシッサの足元にすがりついた。
「おば様、お願いします!ルーナを助けてやって下さい!!あの子は巻き込まれただけなんです!!」
「そう言われても無理だわ。そんなことをしたら今度は私たちが……」
ナルシッサおば様の声の調子から、マルフォイ家の人間たちがかなり厳しい立場に置かされているのをクリスは察した。
そしてそれはもちろん、ドラコの表情からも読み取れた。