第1章 Last summer vacation~Harry~
今まで怒濤の出来事ばかりですっかり忘れていたが、そうだ、自分はもうすぐ「ひとりの大人」となるのだ。
今までのように、ただ守られてばかりで、苦汁をなめさせられるだけではなくなる。
ハリーは無意識の内に、いつもベルトに挟んでいる杖の柄に、ふと手が触れた。
「そうだハリー!ちょっと目をつぶっててくれないか?」
クリスの突然のお願いに、ハリーは杖に触れていた手をパッと離した。と、同時に若干嫌な予感がした。
彼女は時々、フレッドとジョージの上を行くイタズラを仕掛けてくるからだ。
「え……?まさか誕生日直前にいたずらは止めてよね」
「だれがするか、そんなこと!い・い・か・ら!!」
警戒しながらも、ハリーは目をつぶった。
いったい何をするんだろう……。ちょっとドキドキしながら待っていると、窓枠が開く音と共に、柔らかい風が前髪をふわりと流し、額を撫でた。
「もう良いぞ、ハリー」
「え、これって……」
「少し早いけど、お誕生日おめでとう、ハリー!!」
きっと呼び寄せ呪文を使ったのだろう。差し出されたのは渋い紅茶色の包みで、ハリーの瞳の同じエメラルドグリーンのリボンが巻いてある。ハリーがガサゴソと包みを開くと、現れたのは丈夫そうな皮のブーツだった。
「事前にロンから足のサイズを聞いてたから、ぴったりのはずだけれど、試しにちょっと履いてみてくれないか?」
ハリーはボロボロのスニーカーを脱ぎ、皮のブーツに履き替えた。
生地は厚いが柔らかく、しなやかで、なんとも言えぬ素晴らしい履き心地だった。
ハリーは徐々に沸き上がる興奮を我慢できず、その場で2・3回飛び跳ねた。