第1章 Last summer vacation~Harry~
「参った!僕の負けだよっ!!」
「負け?何の話しだ?」
「こっちの話し。……あぁっ!もしかしてクリスが天文学が好きなのって、それが理由?」
「ん~、それだけじゃないけど、まあ切欠にはなったかもしれないな」
ホグワーツでも人気が低い『天文学』の授業の時、たったひとり目をキラキラさせながら望遠鏡を覗いていたクリスの姿を、ハリーは何年も見続けてきたから良く知っている。
人間は「自分はなんて不幸な人間なんだ」とよく錯覚しがちだが、それと同時に、どんな境遇であっても幸せを見いだせるのも、また人間である。
そんな強さを持ったクリスが傍にいてくれて良かったと、ハリーは改めてそう感じた。
「前から聞きたかったんだけどさ、クリスのお父さんってどんな人だったの?」
「無口で根暗で不愛想、おまけに仕事と言っては家を空けてばかり。だから小さい頃からマルフォイ家に入り浸ってたよ」
「マルフォイ、か……」
少なからず関わりのある名前を口にし、ほんの少しハリーの心がささくれだった。
正直に言うと、マルフォイ家の人間に良い感情は持ってない。だが先学期、ダンブルドアの殺害を命じられ、身心とも限界まで追い詰められていたマルフォイの姿を思い出すと、ハリーは知らず知らずの内に眉をひそめた。
――もし、自分にもう少し力があったら、何かしてやれたんじゃないか。少なくとも、マートルのトイレで涙を流すほど追い込まれなかったのではないか。
など考えれば考えるほど自然と眉間にしわがよってくる。するとそのハリーの眉間に、クリスの強力なデコピンがとんできた。
「痛っ!い、いきなり何するの!?」
「ハリー、今何か余計なことを考えてなかったか?」
「余計なこと?」
「良いか、1つ言っておく。あの馬鹿の目を覚まさせるのは私の役目だ、君は『分霊箱』の事だけを考えていれば良い」
そう言いながらキリッとなった彼女の紅い瞳を見つめ、ハリーは完敗だと苦笑いをしながら肩の力を抜いた。
大した根拠もない癖にここまでキッパリ言い切られると、本当に彼女の言う通りになる気がしてくる。
それが顔に出ていたのか、クリスは満足したように笑って視線を星空に戻した。